俳句(12/6掲載)

【石母田星人 選】

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乳児期の歯ブラシ丸し冬木の芽   東松島市新東名/板垣美樹

【評】生後半年ほどで乳歯が生え始める子もいる。最初は親が磨く。自分で歯ブラシを持ちたがるようになると、この句に詠まれているような柄が短くて丸いブラシの出番となる。ひとりで歯を磨く赤ん坊は実に頼もしい。下五の季語「冬木の芽」もまた頼もしい。じっと動かないイメージだが、この季語には春を待つ躍動感が秘められている。乳児の歯磨きと冬木の芽。そのたくましさの中に輝く未来が見える。

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トラックへ銀鱗放つ秋刀魚船   東松島市あおい/大江和子

【評】全国で記録的不漁が続いていた秋刀魚だが、ここにきて女川魚市場が大健闘。水揚げ量、金額とも昨年を上回っている。「銀鱗放つ」という勢いのある表現で、遅れてやってきた水揚げの熱気を伝える。

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鶏の居ぬ鶏舎の奥の小春の陽   石巻市小船越/三浦ときわ

【評】「鶏の居ぬ鶏舎」に注目。この表現で読者にたくさんの鶏がいた頃の光景を想像させている。そのイメージのおかげで「小春の陽」にも動きが加わる。

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大いなる水の地球に冬立ちぬ   石巻市小船越/芳賀正利

【評】立冬の朝に、近くの川か海を前にしての一句だろう。「きょうからいよいよ冬だ」という緊張感がいつもの風景を新鮮なものと感じさせてくれた。

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月とただ一直線にある震禍   多賀城市八幡/佐藤久嘉

海鳴の聞ゆる岬石蕗の花   東松島市矢本/雫石昭一

新走ならぶ神殿祝詞かな   仙台市青葉区/狩野好子

一葉忌ひらひら育つ月日かな   東松島市矢本/紺野透光

鬼房の句碑に小春の日が溜る   石巻市桃生町/西條弘子

牡蠣肥えし森の想ひの深きこと   石巻市丸井戸/水上孝子

勝者より敗者山ほど濁り酒   石巻市開北/星ゆき

菊人形討つも討たるも美しき   石巻市吉野町/伊藤春夫

いわし雲外国船が着岸す   石巻市蛇田/石の森市朗

事務室の薬缶真ん中木の実雨   石巻市中里/川下光子

白が映ゆ浄土ケ浜の小春かな   石巻市広渕/鹿野勝幸

姫神山を撮る冬空の青を背に   石巻市南中里/中山文

雲海を乗せてゴンドラ紅葉狩り   石巻市門脇/佐々木一夫

セーターのトンネル抜けて今朝の顔   石巻市中里/上野空

店頭に焼藷を置く道の駅   石巻市蛇田/高橋牛歩

初霜や庭の花々息絶えて   石巻市桃生町/高橋冠