俳句(5/16掲載)

【石母田星人 選】

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蛸壺を鳴らしてゐたる桜東風   石巻市相野谷/山崎正子

【評】浜辺の道には、使われなくなった古い蛸壺が置かれている。漁師さんの屋号が書かれていたり縄が巻かれたままだったりと、よく見ればその姿はどれも個性的。桜の咲く道でその壺の一つが「ピーピー」と鳴っていた。入り込んだ風が出口を探しているように聞こえる。簡単には出られずに、ほうほうの体で逃げだす風。壺はまだ獲物を待ち続けているようだ。

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一年生夕飯前のきどころ寝   石巻市流留/大槻洋子

【評】コロナウイルスの感染症対策が取られる中、学校生活をスタートさせた新1年生。マスクを着けて新しいランドセルを背負う通学にも慣れてきた。元気いっぱいの毎日だが緊張からの疲れもある。夕飯前のうたた寝だ。起こすのが少しかわいそうになる。

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菜の花や小さき銀輪並ぶ土手   仙台市青葉区/狩野好子

【評】明るい黄色で圧倒的存在感を持つ菜の花と、土手に並ぶ数台の小さな自転車。その描写だけだが、この空間には子どもたちの歓声が聞こえている。

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散歩路肩口濡らす青時雨   石巻市新館/高橋豊

【評】季語の青時雨は、青葉・若葉にたまった水が滴り落ちるさまを時雨に見立てた言葉。肩口に水滴を浴びても決して不快ではない。作者の足取りは軽い。


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初つばめ大河をよぎる手漕舟   石巻市小船越/芳賀正利

高台のそのまた上に揚げ雲雀   多賀城市八幡/佐藤久嘉

渡り行く脚下に蓮の背くらべ   石巻市南中里/中山文

利休の忌日々の流れの余白かな   石巻市丸井戸/水上孝子

もう少し生きたしと思ふさくら咲く   石巻市小船越/三浦ときわ

蛙の目水面に星を数へけり   東松島市矢本/雫石昭一

木漏れ日にとどまる蜥蜴首かしげ   東松島市矢本/紺野透光

網地島の蟹這い出して四股を踏む   石巻市吉野町/伊藤春夫

鳥帰る懸垂型のモノレール   東松島市新東名/板垣美樹

児と走る小川の流れうららかに   石巻市門脇/佐々木一夫

春愁や辞書のうす紙繰りにくし   石巻市開北/星ゆき

ウイルスを避けてひとりや草むしり   石巻市広渕/鹿野勝幸

トラックの幌の中より早乙女来   石巻市蛇田/高橋牛歩

シャキシャキと芹のおひたし春を噛み   東松島市矢本/菅原れい子

山桜いさぎよく散る大樹かな   石巻市駅前北通り/小野正雄

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【選者から】他紙(誌)との二重投稿はお断りします。