俳句(6/13掲載)

【石母田星人 選】

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牡丹(ぼうたん)の株間の闇に日の光   石巻市小船越/芳賀正利

【評】大輪の牡丹ではなくその下に注目した作者。いつもは暗い株間に日が差したのだ。動詞を一切外し「日の光」の動きを見つめさせる構成。印象鮮やか。

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五月雨や袖の渡しも再興す   石巻市吉野町/伊藤春夫

【評】『おくのほそ道』には「路ふみたがえて石の巻といふ湊に出」とある。思いがけず来たようだが、随行の曽良によると予定通りで、芭蕉の文芸上の演出なのだ。街の活況を記した後「袖のわたり・尾ぶちの牧・まのゝ萱はらなどよそめにみて遥なる堤を行」と続く。「よそめにみて」と素っ気ないが、旅の目的は歌枕探訪。ここに挙げた歌枕の地も目に焼き付けたに違いない。掲句、芭蕉らの旅程と重なる季語がいい。塗り替えられた橋を渡る芭蕉の姿が見えるようだ。

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梅雨晴間皆既月蝕影赤し   東松島市矢本/雫石昭一

【評】月蝕の句が多数届いた。その多くに不気味や幻想など感想の語が使われていたが、掲句は違った。景を漢字の羅列で表してイメージを視覚化している。

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ゆらゆらと水琴窟におぼろ月   東松島市矢本/菅原れい子

【評】水琴窟の奏でる音は心に染みるが、聴くのは専ら昼。夜はどう響くのか。掲句はおぼろ月との取り合わせで夜のかそけき音を表現している。配合の妙。

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放流の稚魚浮草の花に寄る   石巻市相野谷/山崎正子

春光の溜め込む瓶のゆがみかな   石巻市中里/川下光子

隧道へ縄文の風藤の花   東松島市新東名/板垣美樹

海音の纏うて揚がる海鰻   石巻市丸井戸/水上孝子

山の家清水を引いて豊かなる   東松島市矢本/紺野透光

満々と代掻き水が溢れくる   石巻市桃生町/高橋冠

座禅草大事に包むマリア様   多賀城市八幡/佐藤久嘉

病葉や戦場の子の目に涙   石巻市渡波町/小林照子

潮干狩り音無く満ちて裾濡らし   石巻市門脇/佐々木一夫

幼子のボールける音著莪の花   仙台市青葉区/狩野好子

切りもなく妻と二人の草むしり   石巻市広渕/鹿野勝幸

木下闇チャタレー夫人立つてゐる   石巻市蛇田/高橋牛歩

欲はまた一世のエンジン今年竹   石巻市開北/星ゆき

小女子の不漁続きをいふ漁師   石巻市蛇田/石の森市朗

朝散歩売地を埋める苜蓿   石巻市南中里/中山文

桜湯や叶はぬ事の多かりき   石巻市流留/大槻洋子