短歌(6/20掲載)

【斉藤 梢 選】

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春疾風吹き止む夕べ湾内に細波のごとく光る鴎ら   女川町/阿部重夫

【評】心に残る光景を詠む。初句から言葉をひとつひとつ味わうように読んでゆくと、結句の「鴎」に出会う。作者の感じた「細波のごとく光る」を想像してみると、その美しさが伝わってくる。上の句では<静>を、下の句では<動>を表現して、一首は映像のようだ。湾内の鴎たちを見て佇む作者のまなざしを思う時、波のいのちと鴎のいのちが呼び合っているという鑑賞もできるのでは。常に変化している自然と、そこに生きる鴎と人間の姿を描いた、印象的な一首。

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薬の名子のようによび夏銀河紅さし指で数えみるなり   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

【評】作者に流れる静かな時間。「薬」を見つめて、数えながら言葉にし難い感情が生まれたのだろう。「薬」の歌であるのに、独特な雰囲気が漂う。上の句は「夏銀河」ゆえに、あたかも一句のようでもある。しかし、この歌は下の句で実感がぐっと出る。薬指を「紅さし指」と言うことで、数える行為にやさしさと切なさが加わる。薬の粒を「子のように」呼ぶ心には、もう一つの世界としての銀河が広がっているのかもしれない。

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ぐらっぐらっと一瞬のゆれで起き上がる「ゆめか」「ゆめか」と眼が闇に問う   石巻市大門町/三條順子

【評】眠っている作者が感じた揺れ。「一瞬のゆれ」を地震だと認識するまでのこの動揺。驚きながらも何度も「闇」を見つめたのだろう。結句が心情を的確に表している。地震の怖さは、この「一瞬」にある。

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夕映えにかがやく病院それぞれの窓の奥には病む人がいる   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】かがやいている建物を見つつ、「窓の奥」に思いが及ぶ。心の眼で見ると見えてくる実状を表現できる作者。「奥」にあるのは病棟空間。命を慈しむ一首。

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八つ手の葉仁王のような手を広げ我が家の門で睨みをきかす   石巻市桃生町/高橋冠

唐桑の巨釜の磯の折石にとどろに寄せては返す白波   石巻市駅前北通り/庄司邦生

旅人を誘(いざな)う如く白つつじ遅筆堂から茂吉の在へ   東松島市矢本/高平但

支え合う「人」の字老いてしみじみと体調いかがの声ありがたし   石巻市蛇田/菅野勇

蓮池や群るる緋鯉のたわむれて浮葉の水滴はじきとばしぬ   石巻市南中里/中山くに子

万緑の風に心がノックされ青春時代へ一瞬戻る   東松島市矢本/川崎淑子

ワクチンを終えて見上げるくもり空泣き出しそうでも心軽やか   東松島市赤井/佐々木スヅ子

かの波の寄せ来たことも遠花火嵩上げすすむ重機の忙(せわ)し   多賀城市八幡/佐藤久嘉

わが庭に真白きつつじ咲きにけりうすみどりなる円形の上(へ)に   石巻市桃生町/三浦多喜夫

今日もまたコロナで明ける日となりて良き事ないか新聞ひろぐ   石巻市不動町/新沼勝夫

永住の覚悟ないまま我が背まで実生南天新芽を伸ばす   石巻市流留/大槻洋子

風呂煙夕闇せまる山裾に流れるさまは墨絵のごとし   石巻市桃生町/千葉小夜子

若葉風日々に彩る街並もコロナ禍マスクに絆遠のく   石巻市わかば/千葉広弥

木の芽味噌香り爛漫染み入りてほかほか飯に皺ゆるみをり   石巻市門脇/佐々木一夫